旅立ちへの決意




宇宙空間に散りばめられたダイヤモンド

それは涙のように小さくて

なのに赤々と燃え上がる炎のようなその赤色巨星に染められて

ルビーのような光を放っている



気高く そして気品に満ちた イスカンダルの女王



自分たちと同じ

たったひとつしかない生命

それは誰のそれとも換わらない尊いものであったのに

それはその煌くひとつひとつに分散してしまっただろうか






戦いは 非生産性のものだ

無ければ無いに越したことはない


  ただ 


それでも 戦わなくてはならないこともある


そして 戦う方法を学び そして生き残る方法を身につけた 俺


そして ―――


     現実は


      目の前のことがそれらの答えなのか ――――?









ちいさな ちいさな かわいい存在

穏やかにその悲しみを瞳の奥にそっと仕舞って、笑顔を向けるその人

お互いの寄り添った時間が総てを賢く支えあおうとする。

そんな姿をただ辛く感じた ―――――




悲しみを悔しく思うことで見守るしかない自分
そして、そんな人たちがまた増えないようにするためには自分たちはどんなことをすればいい??

そんな風に自分の頭の中が目まぐるしく動き出す





茫然自失
そんな風体で自席に座り込んでいた北野は、息をついてしばらくしてから波動エンジンの低い音に気がづいた

それは乗艦当初は慣れることのなかった深夜の振動。
だが、今ではそれがないと眠れない。
そんな温かみのある、心を安心させてくれる力強い音

その音と振動は、自分自身を励ましてくれているようだ。



 艦橋内にいる全員がきっとそう感じて黙り込んでいる

 癒される気持ち


艦長代理もそんな空間にいるのだろうか。
今はあの戦闘時のオーラが消え、弟として守さんを気遣うように見つめている。
それは穏やかな微笑をスターシャに向ける、守さんの悲しみを共有するかのようだ。


失ったものの大きさは失ってから気づくもんだ、と誰かが言っていた。

それがこういうことだと思い知った。


北野は吐息を隠すように僅かに顔を下に向け、そして目を閉じた。
するとさっきまで手の届かないほど遠くにあったスターシャの笑顔が柔らかい別の何かになって消えて行くのを感じた。



 ◆ ◇ ◆



微かな電子音。
それに即座に反応して、左後ろの方でキー操作が始まる。

軽やかなタッチで動いたその手。
それはほんの数秒で停まり、そして椅子を回し、声を張り上げる。

 「艦長代理! デスラー総統から電文が届いています」


相原通信班長から手渡されたそれを見て

艦長代理が一瞬だけ その痛みを堪えるような顔をした。

“傷ついた” その心の傷から流れるものは涙だろうか。

そんな顔をしたように見えた。


 「解った。今から向かうと伝えてくれ」


艦橋に再びピンとした空気が張り詰められる。

艦長代理はグローブとヘルメットを取り出して、島航海長を振り返った。


 「デスラー総統に会ってくる」

 「・・・・」

頷いた島さんのその瞳もまた同じ色をしているようだった。


 「艦長代理・・・!」

そう思わず叫んでしまった自分に艦長代理は歩みを止め
そしてゆっくりと振り返ったあの人の瞳は、いつもの力のこもったものだった。

 
 「・・・大丈夫だ。 総統はもう旅立つつもりなんだ」



 ”旅立つ”


一瞬の淋しさを滲ませた顔をして、そして唇をきゅっと噛んだ艦長代理はそのままもう何も言わずに、背を向けそしてエレベーターに乗り込んだ。



そして北野は振り返り、立ったままの状態のまま、宇宙に漂うその赤いダイヤモンドをしばらく見つめていた。




       戦いは誰もが望んだものではない ―――――



   戦うことによって

   誰かが傷つき

   どこかで 誰かが 涙する



       今も どこかで 誰かが 泣いている ・・・・




自分の胸の奥に 重石のように残るもの。
それがあって、息も苦しい。
そんな気持ちをずっと抱えてゆくのか。

この場にいた自分以外の全員がそうしている。
心にいくつもの傷を持ち、それをひとりで耐え続けているのだろうか。


そして同じように傷を持った人

艦長代理があのデスラー総統と一体どんな話をするのか。


数年前 あれだけ地球を痛めつけたガミラス
それを指示していたのは総統のデスラー

残忍な方法で、地球総てを征服しようとしていた男なのに、このたった一晩に満たない戦いでその男を 酷い男だと思えなくなっていた自分がいる。 

あれほど、憎んだ相手。
辛い日々を幼い時から与え続けてきた相手なのに・・・・!

ヤマトに乗り込んだ時には、そう考えていた。

なのに ―――!

今の自分は、自分と同じ 痛みも悲しみも 
そして苦しみも 知っているのだ と 思えた。


そしてそんな戦いの済んだばかりの今
彼はまた新たなる道を探そうと、
辛い
果てしない旅になるだろうと思われるその道に、もう向かおうとするのか。

自分は ・・・・?



そう。



自分も 一歩前に足を出さなくてはならない


何を目指し、何を求めるのか考えるための道を・
もう一度 進むべき道を見つめ直そう。







 数分後

 デスラー総統は 残った数隻の艦とともに 

 宇宙の彼方へ 出発した


 そして それを見送ったヤマトは
 波動エンジンの低い響きを一気に加速させ
 地球へ向けて 発進した


煌くダイヤモンドをはいつまでもその場所に留まるのだろうか。

永遠という時間は宇宙の存在すべての時間と共有しているだろうか。







                                             SSTopに戻ります


       


       2007.01.03. <分室>に2006.03.21.に格納しました「“旅立ち”への決意」を加筆修正いたしました。
          北野君の永遠でなぜ、ヤマトに乗らなかったのかの伏線のためにあの時描いたんですが・・・。
          まだまだ未消化です。
          新年を向かえ、日々精進(^^) というところで、今回はこの辺で格納します。