いつも必ずそうしてくれた

誰よりも強く

誰よりも優しく

微笑むその顔と差し出されるその手が
       とき
何よりも大事な時間で

それがずっと続くものだと思っていた








                   
まだそれは 


空が青く

       ころ
 海が碧い時代













『あっ! あれ 見て!』

『え?』

『あれは一番星!』

小さい右手をすっと持ち上げ、人差し指が向けらるそれに魅かれるように視線を向ける。

その空にきらりと光るその星は、誰もがよく知る宵の明星 金星 である。

冬が終わり それでも夕刻の日の落ちる頃には肌寒い空気に満ちる。

朝の清々しさとは異なるが、それでも家に灯る明かりの暖かな色にホッとする時間。

毎日弟の保育園に迎えに行くのは自分の仕事。

そしてその年の離れた弟の大きな眼が、笑顔になるたびに細められ繋がった手が、嬉しさを現すようにぎゅぎゅっと握られる。

弟 進の満面な笑顔。

それは彼にとって嬉しいこと。

『おにいちゃん! お星さま 光ってるね! ぴかぴかって言ってるね!』

星が瞬いているように見えることが、何よりも大発見であるかのようにちょっと興奮して言う。

それにこの数日、毎日見える星。

『ああ、そうだね』

飽きもせずに毎日毎日見えるそれにそう言って笑みをこぼす兄は、ただ単純に星の輝きが弟を楽しませていると思っていた。

だから、同じ言葉を、同じ仕草で繰り返されても同じ言葉で、同じ笑顔で返す。

『・・・おにいちゃん。いつもありがとね』

『・・・・・?』

『おにいちゃんがお迎えの時は、いつもピカピカしているね。おにいちゃんが、いつもニコニコしてくれるから、お星さまも嬉しいんだね』

ぽつりぽつりと小さい歩みは視線を落とした分、小さくなりやがてぶらぶらと振っていた繋がる手が止まると一緒に止まった。

守は覗き込むように進を見つめた。

ぎゅっと噛んだ唇が赤くなっている。

そして大きな瞳が潤んでいる。

『・・・進?』

繋がる手の熱さと震えが伝わって守はハッとした。

そしてそれが手を通じて進に伝わったのだろう。

進は小さな拳でぎゅっと零れ落ちそうな涙を拭って、顔を上げた。

それは守とは反対方向だった。

その後小さく鼻をならし、進はかまぼこ型にした眼で守を見上げたのだ。

『おにいちゃん だいすき!』

『・・・進 ――― 』






月が昇ってきて地平線は群青色に侵食される。





あちらこちらに灯された家の明かり。

多くの家庭で帰ってくる人を迎えるための支度を始める時間。

トントンとリズムよく刻まれる音と煙るように立ち上がる湯気が、頭の中に浮かんで消える。

誰かがいる家に帰る事がそう多くなくって、自分達で鍵を開けて明かりを点ける家はひんやりとしている。

それでも必ず進は言うんだ。

『ただいまー!』

そして守は言うのだ。

『おかえり 進』



父や母が家の隣で医院をやっていることは、そんな2人の時間を増やすことだったがそれでも進が物心ついたころからずっとそんな環境だったから、それをとやかく言うこともなく当然のことのようにしてきた。



いろいろなことがあるんだろうなぁ・・・・

保育園でも・・・・



守はまだ3つになったばかりの弟をぎゅっと抱きしめた。


『 俺も進のこと好きだよ 』








胸に熱い想いが溢れ

気がついたら泣いていた

転寝をしていたのはほんの数分

なのに思い出したことは随分と昔のこと



どんなことよりも
それが大事だと思っていた

誰よりも

何よりも







繋いだ手の暖かさは


もう決して

忘れないよ



守兄さん











冥王星会戦にて地球連合艦隊がほぼ壊滅した日



自棄酒を飲んで、気がついた時

痛む頭以上に痛かったのは

忘れていたことの方だったんだ



そしてひとり泣いたことも

その大切な存在をなくさないためにも

忘れないと誓った















いつまでも

大切なひとへ




















2008.05.04. 脱稿
追悼 広川太一郎様 2008.03.03.の訃報に接し深く哀悼の意を表します。
多くのヤマトファンはもちろんですが、洋画でも邦画でも
TVのCMでもナレーションでも忘れることの出来ない声
甘く切なく
時にはファンキーに・・・・
富山敬さんと楽しくいらっしゃることと思います。

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Material by ぽかぽかさま