33333キリリク



その瞳の奥の輝きにいつしか




   恋 愛 育 成 論 





 気がつくと
いつもその後姿を目で追っていた


  時には弱音をもらすこともあるけれど
それでも その後には 誰よりも先に顔を上げ
目に見えないものをじっと見つめる

その時のその瞳は強い光を放ち

彼の強さを感じさせる



初めて出逢った時の翳っていた
ぼんやりとした 虚ろな色をしていた瞳の持ち主と
同じ人だなんて思えないほど


時間と共に

明らかに変わって行く


ひと言でそれが“成長”って言うことは憚られるようで


悲しみと苦しみを
通り過ぎて

今の彼がいる



そして

そんな瞳をする彼を探している私がいる




それは 何故?




もう 知っている答え




それでも

















「 正式に古代にヤマト農園の改修の任が出たようだな。 」

唐突に佐渡が話題を変える。

先程の艦長の定時健診の時、何気なく沖田が告げた。

「 はい。 もう艦長からはお話が行っていると思うんですが・・・・ 」

昨日の艦長の診察前に生活班からその件を申請していた。

それはあのドメル艦隊との決戦で、ヤマト農園は壊滅状態になったためだ。

地球を飛び立ったヤマトの戦闘以外の不安因子である食料事情。

それを少しでも改善したいという思いで、生活班長の雪と炊事科サブチーフ幕の内との意見で始められた農園は、今では供給計画に組み込まれるようになっていた。

それが完全に破壊された時、その管理官は重傷を負っていた。

戦闘終結後、ヤマト全体の補修計画が練られた。

それは当然ヤマトの装甲部・エンジン部が最優先であったが、それと平行してヤマト農園の改修も進められた。

それは食料の確保が出来なければ、ヤマトは激しい戦闘に勝っても自滅の道しかないからだ。

だが、農園の補修も完了が目前になっても、管理官は入院中だった。


コンピューターやロボットでとり合えず土壌の耕作は出来る。

だが、その感覚に等しい微妙は農作物の育つ環境を作り上げ、定着させるにはやはり人間の微妙な判断が必要だった。

それはやはり唯一その管理官だけが出来ることで・・・・

知識はあってもそれに携わっていなかった雪は、入院中の管理官が、止めるのにも関わらずその苦しい息の中で、搾り出すように出した言葉をただ黙って聞いているしかなかった。


       『 艦長代理に、補修の責任者になってもらえるように
         艦長に申請してください 』


一時は心肺停止になった管理官は、流失する土壌を庇うようにその亀裂の入った内壁の前に立ちふさがっていた。

そしてそのまま意識をなくして、気がついたのは慰霊式が済んだ翌日だった。


それほどの重体者なのに、目が覚めると同時にそう呟いた。


       『 黙っていましたが、艦長代理は土の改良と
        食物の育成についてかなりの知識をお持ちなんです 』


正確には“植物”であるが・・・。


初めて農園にやって来た古代と話をした時、その知識の深さに驚嘆した。

戦闘と言う軍艦には当然必要な知識を艦長の次に知識的には持ってるだろう。それに実技面はヤマトでピカ一の戦闘能力を誇っている彼が、植物への造詣が深いなんて思いもしなかった。

それから古代はぶらりとやってきては管理官に許可を取って、それらの手入れをして行くようになった。

それも激しい戦闘の後は、その高ぶる精神を落ち着かせるためか、黙ったまま無心に世話をして行くのだ。


       『 艦長代理は、本当に植物に愛情を持って
        接してくれるんですよ ――― 』


自力呼吸が出来ないような状態なのに、管理官はそう言ってまた苦しそうに浅い息をする。


       『 このことは内緒にしていてくださいって言われていたんですが・・・・
         でも、そんな状態じゃないですからね・・・・
         ですから、古代君に“ごめん”って謝っておいて下さい 』


そこまで言ってまた意識を失った。


雪はこの事に明らかに戸惑っていた。


野菜嫌いで、食卓にそれがのると嫌そうに顔をしかめる古代。

そんな顔を見るたびに、新鮮で天然のその食物・果実を作る農園に対して反対なのだと思っていた。

食べ物なんて、とり合えず栄養を補給できればいいんじゃないかって思っているんだと思っていた。


(それは雪の偏見で、古代は食べることはうるさいのだが、そんなことは誰も知らないことだった。)


それにあのことがあってから、任務のこと以外に古代とは話していない。

それはあの後、なんのリアクションもなく、古代の様子がわからなかったから・・・。

でも、いつもと同じに任務をこなし、回数は少ないように思うが、艦橋でもいつものように島や南部たちから任務以外のことでからかわれ、そして思わず言葉に詰まっていることもあるけど。

それでもその後は、いつもの調子で怒鳴っている。


雪に対してもそう変わらないように見えた。

任務のことについてしか話していないことさえ、雪は気づいていなかった。


それは自分自身に後ろめたいことがあるから ―― だから差しさわりのない会話 ―― 任務についてのことしか、交わしていないのだ。

雪はほとんど医務室に行ったきりで、艦橋に上がることが少なかった分、古代と接することはほとんどなかったこともそれを考えさせないでいた。

そしてそれが雪にとってはホッとするような・・・。でも、無意識に零れるため息。

それを佐渡が気づいているということは、業務にも集中していないことがあったということだろうか。

 「 なぁ 雪。わしにも治せないもんがあるんじゃ。 」

 「 はい? 」

 「 自覚のないものほど手に負えないものはない。 それに今回のは、『お医者様でも草津の湯でも直らん』と大昔から言われてるからのう~ 」

 「 ???? 」

佐渡の話はあまりにも唐突過ぎて、それにあまりにも話が飛ぶので、何のことを言いたいのか雪には全くわからなかった。

疑問符を眉間で現したままの雪を佐渡は可笑しそうに笑い、そしていつもの調子で並々と注いだ湯飲みの酒を煽った。




                         






古代は沖田から命じられたその足で中央コンピューター室に行った。

そしてあらかじめ、考えていたものを出力して手に取った。

管理官と密かに実験していた土壌改良についてのデーターは、化学記号と細かい数字が羅列している。

それに目を通して、ニッと笑うと古代はそれを筒にして、そのままヤマト農園に向かった。

農園の補強も済んで、今はまた土壌の回復作業に入っていることは古代も昨日真田から聞いていた。

それにまだ管理官の様態は変わらない。

あの状態で生きているってことの方がすごい、と衛生班の誰かが言っていた。

そのぐらいの重傷だったのだ。

だから、もし農園の再建の話があれば、古代自身それを申告しようと思っていた。

それは誰にも告げていなかった楽しみのひとつであったが、今の状態を考えれば、それを口止めしなくてもよかったのかもしれない、と思う古代だった。

だが、沖田艦長は気づいていたようだ。

生活班の申請許可に古代への質問もなく、独断で即決に近い形で決断したということは、気づいていたからに他ならない。

そしてそれに気づいていながらも言わないでいたんだ。そういう人だ。

そんな任務と無関係なことでも、任務に差し支えないことは口を出さない艦長の姿勢に、自分が認められているような気がする。


そんな沖田だからこそ、その信頼を欠く事ないように、任務にも力が入る気がしていた古代だった。






     







「 艦長代理! 」

負傷した管理官は入ってきたのが古代だったので、その痛む身体をベットから起こそうとした。

 「 ああ、起きないで。まだ、安静が必要だって佐渡先生が・・・ 」

 「 もう寝てるのは厭きましたよ。 そろそろ土の匂いを嗅ぎたいですよ 」

それが本心からの言葉だと思う。

古代は笑顔を見せながら、その手にしていた書類を見せた。

 「 艦長から任命されました。当面の管理は僕がするようにって。 」

 「 そうですか! よかったです! これで安心できます! 」

そういいながらも些か翳りのある笑顔を見せる。

たぶん自分の立場とか任務とかを考えているのだろう。

 「 艦長のお墨付きですからね。しばらくは堂々と艦長代理職から開放されます。ついでに戦闘班職もね 」

 「 でも、無理はしないで下さいね。 」

古代の言葉に彼はさっきよりは明るく微笑んだ。

古代より年齢はかなり上であるが、その笑顔は少年のようだ。

生活班のヤマト農園の管理と艦内・艦外の細菌、地球外生命体の研究をしている科学局の生物学者だった管理官はヤマトに乗るまで地球でしか過ごしたことがなかった。

それでも、地球人類にとっては太陽系外に出ること事態が未知の事だったのだ。

すべての者が知識としては認知していてる、それを実践につなげることは誰もが初めてだった。

ヤマト農園の建設も手探りで、知識だけではどうにもならない時、ぶらりとやってきた古代。

それまでまったく古代と話しをしたことのなかった管理官は、表情もなくどことなく疲れたような顔をした幼さの残る古代の訪問に戸惑った。

だが、少し話しをしただけで直感した。


       結構わかってるなぁ ―――


そう思ってから彼は古代を見ると笑顔で迎え入れた。

古代もそんな管理官に笑って答える。

それは農園への愛情の深さと一緒のように深まって行く。



                         



古代の持ってきた書類を一通り見て、管理官は満足そうな顔をした。

地球から持ち込んだ土の半分以上は流失した。

その土をどうするか。 それが問題だったが、それもどうやら古代は解決済みらしい。

返された書類を自分で開き、古代はまた管理官の前に向ける。


 「 先日採取した小惑星の内部を構成していたものが土に近いようです。 なので、それを使って耕作しようと思っているんですが・・・ 」

そのデーターに自分が意識を失っている間から、古代がそれに対処していたのかが伺われた。

 「 すでに、1部に微生物を繁殖させています。 化学肥料と合わせたものとそうでないものを用意して全部で3種類の土壌を培養してますが、よかったですか? 」

数値的には地球の土壌成分に酷似する。 それに細菌がないことで、ある程度の微生物を繁殖されることも出来る可能性もある。 より一層土壌が豊かになればそれに越したことはない。

古代の言葉に頷いた。

ここまでやってくれているとは思っていなかった。 

あれほど、激しかった戦闘。 ヤマトの損傷状態もまともに飛行できなかった。 不眠無休の状態の数日間は外装と第3艦橋の改造に費やされ、内部もまだ修理中のところも多い。

それらを指揮しながら、言われてもいないことをしてくれるとは。

思わず嬉しくなって目の前が滲む。

 「 ありがとうございます。 艦長代理 」

そう言いながら横になったまま頭を動かせる状態ではないのに深々と頭を下げる。
それに古代はうろたえた。

 「 や、 止めて下さい。 俺、そんな大したことしたわけじゃないんです。 むしろ、無断でここまでやってしまって、こんなこと艦長に知れたら、怒鳴られるだけじゃすみませんよ。 ――― それにこれが完全に落ち着くまでは、数日かかります。 それまで俺、頭下げられても責任取れませんよ 」

顔を赤くしながらそう言って古代は頬を膨らませた。

子どものような顔をして、実際自分よりひと回り以上若い艦長代理。 

そんな彼が一生懸命テレを隠そうとする姿は何となく笑える。

 「 解かりました。 ここが再建された時まで、とっておきます 」

もういいですよ。 それも勘弁してください。 
と古代は言いならが 赤らむ顔を見せないように書類を見る振りをした。







  






工作班の真田さんがヤマト農園の設備修繕が完了したことを告げらた。

あとはこちらの管轄で、何か問題があったら
言ってくれと。


私は佐渡先生に後を任せ、早速そこに向かった。

するとすでにそこには・・・

「 古代君・・・ 」

「 あ・・・。 生活班長。 」

ちょっとだけバツの悪そうな顔

だけど次の瞬間この数日見せたことのないような笑顔をした古代君がいる。

彼はすでに泥で顔を汚し、薄っすらと汗をかいていた。

「 艦長からここの復旧に協力するように任命されたんだ。 
明日からって言われたけどちょうど時間空いてたし、
通りかかったらここも設備が完了してたから・・・
・・・・班長の君に報告なく作業に入って悪かった 」

え。

そう言って彼は素直に頭を下げた。

こんな生活区域の外れにある場所に通りかかることはない。

そして部門責任者(私)の許可なく入室したことへの謝罪を
素直に口にする古代君は初めてだった。

とっさのことで言葉が出ない。

だから私はただ首を横に振った。

「 いいえ。 もう、艦長からお話が行っているのなら
今の責任者はあなただわ 古代君 」

こんな形式的な言葉しかいえないなんて

あまりにも自分が歯痒い。

それで私はそれを誤魔化すように、
手に持っていたボードをギュッと胸に抱えて深呼吸した。

すでに一作業を終えたらしい彼は、そんな私の様子に気づくこともないようで、
土の入った場所を真剣な顔で見つめながら話し始めた。

「 さっき管理官とも話してきたんだけど、
窒素・リン酸・カリの配合とそれに微量要素の成分は、
以前のままでやってみようってことになったから・・・」

私はその用語を知ってはいたけれど 内容はまったくチンプンカンプンで
専門的な話をしだした古代君をただキョトンとした顔で見ているしかなかった。

それに気づいたようで、古代君はちょっとだけ笑った。

「 ごめん、そんな事言っても困るよな。
取り合えず、管理官に許可はもらったから
残っている土はそのままこれまでの状態で使って
別区画に新たに土壌を用意しようと思ってる 」

どうしてそんなに専門的なことを知っているとか
そんな難しいことを自分で考え作ってしまうとか

聞きたいことはたくさんあったけど

あまりにも自然に古代君が農園のことを話すので

そんな細かいことはどうでもいいことなのだと思った。


ただ時が穏やかに過ぎる


それはいつも何かしら彼の言葉に
余計なひと言を重ねあっていた
私たちの間にはなかった時間だったのに。



―― 艦内で一番自然な空気と風が流れる場所にしたい ――


そう管理官が言われたことがあった


そうして彼は作物の隅に花を植えるようになった

そしてそう大きくならない果実の木を植えることもあった



目で癒され
香りで和ませる


そんな空間に


それさえもどうやら古代君は知っているんだろう

ここにいない管理官の気持ちを解かっているんだろう


そう感じて、私の知らない古代君がいることを
強く感じて

でも

そんないろいろな顔を持っている彼に
またドキドキしてしまう


あんなことがあったのに

何も言わずに 何も聞かずに私たちはいる


それは私自身 ずるいって思うけど

それでも 何を言うの?

なんて言って あの時の言葉を否定するの?


否定?


私は自分の心の声に また疑問を感じた



何が本心で 何が偽りなのか

自分でもわからない



でも


こんな風に穏やか過ぎる時間が

それが無限だったらいいと思わせたのは本当の気持ちだった






   







「 なあ、昨日のデーターはどうだった? 」

「 あれは、古代君が言ってた通りの結果に・・・ 」

私は持っていたファイルから
古代君に言われて進めていた土壌の培養データーを
取り出して彼の前に差し出した。

それを彼は「 ありがとう 」と言いながら
ニコッと無意識に笑って受け取る。

そんな些細なことなのに


 ドキッ
 

と跳ねる私の心臓


―― もう 無意識に無防備に笑わないでよ ――


ついそんな言葉が口に出そうになる

頬が熱くなるのを感じて私はちょっと彼のそばを離れた

そしてまたため息をつく

まったく何にも感じていないだろう古代君は
そのデーター結果を顎に手を当てて見ながら真剣な顔をしている

あの澄んだ瞳

真っ直ぐな すべてを見つめようとする目がとてもきれい

私はゆっくりとそんな彼の顔を横からこっそり見つめていたら
突然顔を向けたその瞳とぶつかった。


//////



古代君は何も変らず私のほうに近づいてくる


この数日 彼と同じ時間を過ごすことが急に増えた

それは農園の作業に関してのことばかりだったけど
それでも古代君は何も言わず
ただ 農園の作業を無心に行っている

そして私も何も言わない

何も触れない

それはもう あの時のことなんて
なかったことって思いたいから




「 ちょっと考えたんだけど、拡張しただろ? 
あの一部に試してみたいものがあるんだ 」

「 え? なに? 」

あまりにも突然のことに私は全く何のことか解からなかった。

それに気づいたのか今度はクスリっと笑う

「 あ、ごめん。 計画はもう了解してもらったんだけど
あの1メートル角のところに花を・・・植えてみようかなって 」

そう言いながら古代君は補修で拡張した一角を指差した。

それは本当に隅っこで まだ食料計画には入っていない場所。

それにそこの土壌は古代君が作った土だった。

「 事後承諾で申し訳ない。 艦長にも話しはしてあるんだ。
ついでにもう種植えちゃったし・・・ 」

頭をかきならが彼はそう言って舌を出した。


本当に子どもみたい


「 ・・・それじゃぁ 事後承諾もないじゃないの 」

「 ごめーん。 ほんの出来心さ 」

「 もう そればっかりね 古代君は 」

両手を合わせごめんねポーズをするけれど
少しもそれについて悪いと思っていない様子の彼

そんな彼をここ数日見続けている私は
ただ呆れたように彼を見ただけで怒ることも忘れていた

以前の私たちなら
必ずこれから口ゲンカに発展しているのに・・・


そしてあの時以前に戻ったように思えて

ちょっと嬉しかったりする私がいる







古代君はまたちょっと真面目な顔をしてその土を見つめている。

それからしゃがみ込んで端の部分を手で触り
指先で土をつまむとその感触を確かめるように指を擦る

しっとりとした感じの土はそれでもさらりと指から落ちる

こげ茶色したその土に満足そうに頷きまた立ち上がった。

「 昨日の菜ものの成長はだいぶいいみたいだね 」

短期間で育成できるように改良した種を使っている上に
日光照射も24時間を2サイクルにしている

もう発芽して数日後には食物としてみんなに提供できるだろう

これが安定して供給できる見通しが立ち
炊事科の新谷料理長がとても喜んでいた。

それに生活班もしばらくは食料調達の心配がなくなった。


「 ・・・ありがとう 古代君のおかげだわ 」

本心からそう思った。

すると あれ? としたような顔をした古代君

だけどすぐにまたニコっと笑った後、
少しだけ口を尖らせ私から視線を外した。



そんな仕草を照れくさい時にするっていうことを
この任務に古代君が就いてしばらくして私は気づいた



古代君はスッと顔を上げ、広がる農園を見渡しながら
嬉しそうな顔をした

「 また、時間が取れたら手伝わせてもらうよ 」

少しだけ擦れた声

艦内ではいつも着けている手袋を外したその手で
また土を触る

人工的に作られた土

化学肥料も有機肥料もすべて古代君が配合し、
そして丹念に混ぜて微生物の生存も確認している

光の加減も
水やりのタイミングも

すべて古代君の指示で新たに作られたヤマト農園

それを愛でるように見つめた後

古代君は立ち上がった

「 良かったよ。 管理官の復帰が決まって 」

明日が退院になった管理官

重傷者だったわりには回復が早く、非戦闘員なので
そう無理をしなければ任務に戻ってもいいと佐渡先生の許可が下った。

「 そうね。 早くここが見たいって仰っていたわ 」

古代君に安心して全てを任せ
自分はひたすらここを見ることに思いを馳せていた。

そんな願いに心も身体も生きることへの
望みを大きく感じたのかもしれない

しばらくは車椅子での生活になるようだけど
それでもここの管理をすることは問題ない。



この7日間

艦長にこちらを重視していいと言われていたのに
古代君は艦長代理職もきちんとこなしていた。

それは彼の性格がそうさせるようだけど

見ていて無理をしているんじゃないかと思ったけど

それでも誰にもそれに対して口を挟むことはさせず
ましてやそんな両天秤で失敗することもなく
呆れるほど完璧に近い状態の日々だった


まぁ多少の皺寄せは戦闘班にいったようだけど


でも、それも任せられる人たち
―― ブラックタイガーには加藤君と山本君
―― 戦闘班の副班長で砲術長の南部君 ――
彼らがいるので古代君はまったく気にしていないようだった

でも

そんな状態の日々は身体を壊すわ


複雑な思い

ここでこうして過ごす時間がとても充実していた分

それがなくなると思うとそれだけで胸にポッカリと穴が開いたよう


それは

私が・・・・




「 じゃぁ 」





「 あっ・・・ ! 待って古代君! 」





なんに準備もしていないのにかけてしまった言葉


 「 ? 」


古代君は足を止め 顔だけを私に向けた


・・・・・


何を言うの?

何ていうの?

伝える勇気はないのに


黙っている私に古代君は体を向けた。

そして首を傾げながら戻ってくる。





「 さっき言ってたあの場所に何を撒いたの? 」




私って ばかぁー・・・


そう言った私に古代君はちょっと驚いた顔をした

2・3度瞬きをする


「 え? それは・・・ 。 ―― 内緒 」

「 内緒?? どうして? 」

私はそんな唐突もない質問をしておきながら
次の古代君の言葉にまた疑問を繰り返す。


何故『内緒』にする必要があるのかしら。


また古代君は笑いながら私を見ている。

そんな彼を怒ることも 問い詰めることもなく

ただ私は不思議そうに古代君を見ていた。


「 改良した種だからすぐに芽を出すよ。
そうだなー・・・ マゼラン星雲に着く頃には、花が開くかもな 」

ミーティングで島君が言っていた。

あと4日もすればマゼラン星雲が見えるって。

そこからワープでさらに10日間ほどでイスカンダルに到着予定だと。

「 あくまでも予定だけどね。」

古代君はそういいながら楽しそうに笑った。

何かを想像しているのだろう。

その笑顔は本当に屈託のない子どものようで
そんな笑顔の古代君を私は初めて見た気がした。



もう 古代君たっら
やめてよ

そんな風に笑わないで

///////



無防備に笑う彼に私の心臓はとても
自分では止めることが出来ないほど
ドキドキしている

私自身気がついて

でもそれを受け止めていないことなのに

こうして私だけが

苦しく思っているなんて

そんな想いでいるなんて・・・・





わたし

古代君が 好きなの

きっと

たぶん


そうじゃないかって

やっと思ったのよ





「 昔の地球にはどこでも見られた花

ふわふわしてどこに行くのかなんて風まかせなのに

でも、しっかり根を張ると

どんなに寒くても また芽を出すよ 」


そんな健気で でもしっかりした花だよ

(君のようにね)


何かを思い出すように 消えそうな顔

幼い時の大切な大切な思い出

彼の悲運な運命は 彼の強さになっている

でも やっぱり それは私にとっても悲しいことだった




 「 じゃぁ 俺 艦橋に戻るよ。 」



古代君は私にもう一度笑顔を見せると

今度はそのまま扉の向こうに消えた




そしてその背中は

わたしが言い出せない言葉を止めさせるようで・・・・

まだ その時間(とき)ではないと

告げていたように見えた



私の想いは

まだ芽の出ていない種と同じなのかもしれないわ


そう思って その気持ちが

育ってゆくことを密かに願ったの















 「どうした古代。 いい事でもあったか? 」

戦闘班長席に座り、そしてミーティングの資料を見ていた古代が何かに笑っていることに気づいて、島は声をかけた。

 「 いや。 何でもないよ 」

 「 その思い出し笑いは、スケベ面だぞ。 そんな顔しているとファンが減る 」

 「 な。なんだよーそれ! ファンなんていないぞー 」

島の言葉に赤面した古代はムスッと仏頂面になる。

それにカラカラと笑いながら島は操縦桿にもたれるようにして古代を仰ぎ見た。

 「 戦闘班長兼艦長代理殿は女性乗務員に大層人気だそうで・・・ 」

そんな話が巷ではながれてます―― としらっとして言う。

それは自分もじゃないか。と取り合えずそういう話を知ってはいる古代は眉間に皺を寄せた。

いかにも迷惑っていう感じだ。

 「 そんなあなたはただひとり いらっしゃればいいってか? 」

 「 えー!! そうなんですか? 」

 「 いいなぁ~ 古代さん。 何でこんなに”鬼”なのに、女の子に人気あるんでしょうねー 」

 「 お裾分け お裾分け♪ 」

艦長も機関長も、ついでに、真田さんもいない艦橋は無法地帯だ。

古代の眉間の皺が深まり、その頬が赤くなってくることさえ知らん振りできるヤツら楽しそうに騒ぎ出す。

古代の爆発が炸裂するまでカウントダウン。

それでも止めない同期4人だった。



                        


                 ―――   あの日

                        あの時  ――― 




古代が偶然にしろ聴いてしまった言葉。

島たちはそれが彼女の本心でないとわかっていても、古代はそうじゃなかったらしい。
いつもと同じにしている分、ひどく落ち込んでいたことが判る。


(でも自分が落ち込んでいるかなんて、気づいていないし、ましてや雪の言葉が裏表だなんてまったく理解していない鈍感なヤツだからなー・・・。鈍過ぎっ!!)


だが古代にそれを告げるわけにも、また雪にそれを伝えることも出来ない。

口を挟める立場でない分、ふたりの想いをヤキモキするしかなかった分、やっと自然と笑っている古代に安心したのだから、このぐらいの鬱憤晴らしはいいだろうと島と南部は思っている。

そしてそんな気持ちを口に出せないから別の形にしているって事は、古代は知らない。

でも、これからふたりの恋を育ててゆけるのかは ―――


 「 お前次第だよ、古代 」


 「 ・・・? 」


ついそう呟いてしまった島。

それに 何が?と言う顔をしている古代。


      先が思いやられるな ―――


そう思ってまた島は笑った。






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33333キリバンリクエスト「ガミラスでの決戦前の記念写真を撮る頃の古代と雪のストーリー」とさくらさんからいただき、すでに4ヶ月。 いや~あまりにもお待たせして申し訳ありませんでした!
その上、あまりにもまとまらず3部作形式でUPさせていただきます。(ここがリクの部分ですが・・)
残り、『あとがき』兼『やつあたり』的なお話を後日UPします。
あーマゼラン星雲波高しーってホントね(^^)なんて誤魔化す一蓮です。




2006.06.17 脱稿
2006.06.18. 加・修正